この街角で

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ハロウィン

halloween



へえ、ハロウィンパレード、そんなものがあるのね。
随分と日本も変わったわね。

住宅地の片隅にあるカフェで外をぼんやりと眺めながら、早紀はそんな事を思っていた。
ハロウィンなんて、早紀が子供の頃には、知っている人の方が少ないような行事だった。
今でも日本に根付いたとは思えず、街角がオレンジと黒で飾られるのを見ても、一体どれだけの家庭がハロウィンを行事として捉えているのだろうと訝しんでいた。
だが、実際には早紀が思っていたよりも、ハロウィンは身近な行事になっていたようだ。

子供達が思い思いの仮装をして通り過ぎるのをひとしきり眺めてから、そろそろ帰ろうかとぬるくなったコーヒーを飲み干し、店を出た。

家路を辿り、大通りから一つ角を曲がる。
その時だった。

「Trick or Treat!」

いつの間にか、子供が早紀の服の端を掴んでいた。
パレードからはぐれた子供だろうか。
小学校低学年くらいに見える、女の子。
魔女の仮装がよく似合う、可愛い子だった。

「小さい魔女さん、こんにちは。
 でも、お菓子は持っていないの。ごめんなさいね。」

女の子は、迷子にしては全く怯えた様子がない。
ちょっと小首を傾げ、考える表情をした後、にかっと笑った。

「おやつはないの?本当に?
 じゃあ、お姉ちゃんにはいたずらだよ!」

その言葉と共に、近くの街灯が瞬いた気がした。

女の子は、早紀の手を掴み、歩き出した。

「ちょっと、お姉ちゃん、お家に帰らなくちゃいけないの。」

慌てて言う早紀を振り返りもせず、女の子は言う。

「だって、おやつがないんでしょう?
 それに、家で待っている人はいなくなっちゃったじゃない。」

早紀は唖然とした。
なんで知っているの?

ちょうど二ヶ月前、一緒に住んでいた彼が猫を連れて出て行った。
きっかけは些細な喧嘩だった。
お互いに引っ込みが付かなくなって、傷つけるような事を言い合った。
それから早紀は家に帰ってもぼんやりと過ごしていた。

彼と猫と暮らしていた場所が、とても寂しく冷たい場所になってしまった。
会社へ行っても、仕事はこなすだけのものになり、以前のように打ち込む気力がなくなっていた。

呆然としたまま手を引かれ、どこをどう通ったか分からないうちに、知らない路地に来ていた。
近くにこんな場所があったなんて知らなかった。

「お姉ちゃん、一人が好きなの?」

歩きながら、女の子が口を開いた。

「好きなんかじゃないわ。」

「じゃあ、どうして彼と猫を追い出したりしたの?」

「追い出してなんかいないわ。彼が急に出て行ったのよ。」

「どうして?」

「知らないわ。分からないの。」

しばらく黙って歩く。
どうしてこんなに素直に話してしまうんだろうと、早紀は自分の事がおかしくなって、ふと笑ってしまった。

「お姉ちゃん、分からないのに、いいの?あんまり大切じゃ無かったって事?」

「そんな事ないわ。
 でも、相手が私を必要としていないのなら、仕方ないでしょう。」

そう言いつつ、どうして私はあの人を引き止めて、ちゃんと話し合わなかったんだろう、と思った。
私は恐かったのかも知れない。
彼の本心を聞くのが。
でも、こうして失ってしまっては一緒ではないか。
自分の心とも、彼の本心とも向き合わず、逃げてしまったのは自分だ。

ふと、自分の手を握る女の子の手が震えているのに気が付いた。
「寒いの?」
こくんと女の子が頷く。

自分の上着を脱いで、女の子の肩に掛けつつ、ふとポケットの中身に気が付いた。
さっきのカフェ、コーヒーには小さいチョコレートが一片付いてくる。

「これを食べなさい。お腹に何か入れると落ち着くわよ。」

女の子は、早紀を振り返り、目をじっと見つめた。
そして、チョコを受け取り、にかっと笑った。

「ありがとう!
 お姉ちゃん、おやつ持ってたじゃない!」

 . . .

気付くと、女の子に声を掛けられた元の場所に立っていた。

訳が分からず、呆然としていると、携帯が鳴った。
部屋から出て行った彼からだった。

電話に出ると、彼はひどく慌てていた。

「ルルがいなくなった!」

ルルは、彼と一緒に飼っていた猫で、完全な室内飼いだ。
外に出た事なんかない猫がいなくなって、慌てるのは当然だ。
早紀も、心配になって、心拍数があがった。

「どこでいなくなったの?どうして?」

彼が、珍しくルルを抱いて散歩をしていたら、子供の自転車に突っ込まれ、その音に驚いたルルが腕を飛び出し、走り去ったらしい。

場所を訊くと、すぐ近くだった。

「今すぐ行くわ。」

早紀は走り出した。


彼と一緒にルルを探した。
辺りはもうすっかり真っ暗で、気持ちが焦る。

もう見つからないかも、と思いかけた時、微かな鳴き声が聞こえた気がした。

「ね、今の聞こえた?」

「何が?」

彼には聞こえなかったらしい。
でも、早紀は振り返ると、家と家の間の細い道とも呼べないような狭い隙間を見つけ、そこへ入った。

後ろから彼が呼び止める声が聞こえたが、構わず進んだ。
また、聞こえた。

すると、物陰でうずくまっているルルがいた。

・・・良かった。
安堵で泣きそうになりながら、ルルを抱き、元の道へ戻る。
彼も泣きそうな顔になっている。

彼の腕へルルを渡す時、ルルがじっと早紀の目を見た。
そして、嬉しそうな声で鳴いた。

早紀はそれを見て、さっきの女の子の目と、にかっという笑顔を思い出した。

 . . .

早紀は深呼吸をして、彼に向き合った。

「ねえ、私、話したい事があるの。」

「・・・うん、俺も、話があるんだ。」






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  1. 2007/10/31(水) 23:21:58|
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  3. | コメント:14

歯医者

French_toast



待合室には、とても小さな音でソニー・ロリンズが掛かっていた。
僕は歯科検診の為に、久し振りに歯医者に来ていた。
検診を受け、歯石を取ってもらうつもりだった。

そう言えば、前回行った歯医者には、やはり小さな音でモーツァルトが掛かっていたっけ。
考えてみると、歯科医院というのは、音楽を掛けている事が多いのだろうか。
少なくとも、僕の記憶の中で、内科医の待合室で音楽を聴いた覚えはない。
そこにあるのは、子供の高い声と、お年寄りの話し声、そしてテレビから流れてくるアナウンサーの声だった。
よく言われる "歯科医院は恐い" というイメージを払拭する為、患者にリラックスしてもらう為の苦肉の策なのだろうか。
それとも、僕の訪れる歯科医師が、たまたま音楽好きなのだろうか。

まあ、そんな事はどうでもいい。
僕は、持ってきた短編集に視線を戻した。
とても短い短編が入ったもので、気が向いたところを適当に開いて読んでいた。
初めて読む作家のものだったが、文体が割と僕の好みで、僕は気になるタイトルの物から順に、適当に読んでいた。

隣から、「随分待ちますねえ。」と声を掛けられた。
見ると、スーツ姿の男が疲れたような顔をして座っていた。

「私なんて、もうかれこれ 40分も待っていますよ。」

「ここ、人気があるみたいですから。」
僕は出来るだけ失礼にならないよう、しかし話す気がない事を滲ませつつ返事をする。

「確かにお休みの日に営業しているなんて、便利ですからね、人気もあるんでしょう。
 あなたは今日はお休みで?」

僕の意図に気付かないのか、或いは全く無視しているのか、彼は続けて話し掛けてくる。

「ええ。休みじゃないとなかなか来られないものですから。」

「私は営業の途中で立ち寄ったんですがね、こう長く待たされちゃ適いませんよ。
 お、それは ** の短編集じゃないですか。
 こう見えても、私はその作家には詳しいんですよ。」

彼は僕の手の中の本に目を向けると、やおら語り出した。
僕は内心むっとしつつ、聞き流す事にした。
出来るだけ彼の言葉が僕の中に入って来ないようする事に、集中した。
僕は、小説や映画に関して、自分が読んだり観たりするよりも先に、ストーリーや人の評価を聞くのが嫌いなのだ。
それが暇つぶしに読んでいる本であっても。

なので、話題が変わった事に、僕は気付かずにいた。
気付くと彼は、僕に何かを懸命に訴えていた。

「ですから、これは丈夫で持ちはいいし、性能もとてもいいんです。
 もう、付け替えたらすぐにでも今までと全く違う世界を体感出来ますよ。
 おまけに、今なら前の物はタダで下取り致します。
 見たところ、30年はお使いでしょう。普通なら下取りだけでも・・・」

「あの、ちょっとすみません。少しぼーっとしていて。
 あなた、セールスマンなんですか?」

相手はちょっとむっとした感情を必死で笑顔の奥に隠し(でもそれは、少しだけ滲み出ていた)、こほんと咳払いをした。

「ええ、そうです。
 こんなお得な話はありませんよ。
 普通なら、初めてのお客様へこんなサービスはしないんですがね、ここでお会いしたのも何かの縁という事で。」

「で、僕は今、何を勧められているんですか?」

相手はさすがに、むっとした表情を 1cm くらい表に出したまま、残りを押し留め、息を吸った。

「ですから、影ですよ。あなたの影は随分くたびれている。」

「影?僕の、影、ですか?」

「そうですよ、そろそろ限界なんじゃないですか?」

 . . .

僕は無言で立ち上がり、受付に行って、今日はちょっと具合が悪くなったのでまた出直すからと診察券を返してもらい、そのまま外へ出た。

影だって?

全くもって、失礼な話だ。
確かに出来は良くないかもしれないけれど、こいつは不満も言わず、三十何年間もいつでも僕に寄り添っていてくれたんだ。

全く、折角重い腰をあげて、歯科検診に行ったというのに、なんでこんな目に遭うんだ?

 . . .

「ふーん。」と目の前の君が言う。

「それが、あなたが今日の歯科検診をサボって、今ここで甘い物なんか食べている理由なの?」

僕は反論を試みる。
「君は疑っているみたいだけど、本当なんだって。
 歯科検診にはちゃんと行く。でも、別の良さそうな歯医者をみつけてからだよ。」

「ま、いいけどね、私の歯じゃないし。
 でも、あなたは本当に歯医者が嫌いなのね。」

「そうじゃないんだ、そこには、本当にそんなヤツが・・・」

僕は最後まで喋れなかった。
君が、僕のセリフの途中で口を開いたのだ。

「それに今どき、そんな古い影を使っている人なんて珍しいわ。」






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  1. 2007/08/09(木) 04:01:18|
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コンビニ

sunset_in_a_town




僕は、多分、疲れていた。
連日、深夜まで残業し、その上、家でも持ち帰った資料に目を通した。
朝になると、早朝の満員電車に揺られて会社に向かった。

ふと、「何をしているんだ。」そんな声が湧き上がった。
ずっと蓋をして気付かない振りをしていた壺の中から、反響して響いてくるような声だった。

それでも、僕はその声を無視する事にした。
僕は、忙しかったのだ。
余計な悩みはもう抱えたくない。
"無理しているんじゃないか" なんていう迷いに向き合う時間すらなかった。

長年付き合っている彼女とも、別れるでもなく、進むでもなくそのままだった。
彼女がいい年になっているのは知っていたし、いつかは結婚するつもりでもいたが、今は具体的に話を進める余裕は無かった。
いつしか彼女も、その事を話題にするのはやめていた。

僕はまるで、現状を維持する為だけに走り続けている、回し車の中のリスのようだった。
カタカタと回し車が回る、その音には耳を傾けずに走り続けた。


ある日、久し振りに仕事が早く終わり、いつもよりも大分早く、夕方に帰れる事になった。
彼女と駅で待ち合わせ、一緒に僕の家に行く事にした。

待ち合わせの時間通りにやってきた彼女は、いつものようににこやかだった。
だけど、僕は一瞬、妙な違和感を覚えた。
それが何なのかは分からない。

久し振りに会うせいなのかも知れない。

いつものように、他愛も無い会話を交わしつつ、並んで歩く。
いつもと変わらないはずなのに、なぜか僕と君の間に薄い膜があるような気がする。
疲れのせいなのだと思った。

交差点で、いつものコンビニに入った。
ここで、僕の違和感は跳ね上がった。
何かがおかしい。

そう言えば、このコンビニは、いつも少しおでんやホットメニューの入り混じった匂いがして、僕はそれが嫌いだった。
なのに、今日はそれがない。
いつも通り、レジの脇にはおでんもあるのに。

僕は、妙な胸騒ぎがして、店の外へ飛び出した。
すると、見慣れたはずの風景が、いきなり僕にはよそよそしく感じられた。
行き交う人々、町の喧騒、変わらないはずの景色に、そこに感じるはずの「生の空気」のような物が感じられない。

ふと気付くと、真後ろに彼女が立っていた。
気配もなく。
僕は、驚き、飛び退った。
彼女は、驚いた風もなく、「あなたの好きなお弁当も買ったわ。帰りましょう。」と微笑んだ。
それは、僕の知っている彼女ではなかった。
外見は同じでも、心を交し合った、あの彼女とは思えなかった。
いや、全くの別人だった。


その時、僕は、ここが僕の世界ではない事を確信した。

 . . .

これは、何なんだ。
この世界は、僕の知っている世界ではない。
良く似ているけど、面倒くさくて暑苦しく、それでいて愛しい、あの世界ではない。
そんな想いが込上げてきた。

一体、ここは、どこなんだ?!


その時、あの壺の中からのような声が頭に響いた。
「望んだ世界はここじゃないのか。」


現状を維持する事だけを考えていた。
このまま何も迷わずに毎日を過ごす事だけに目を向けていた。

でも、迷いも悩みもあってこそ、生きているのだと思った。
こんな物は、僕が望んだものではない!

 . . .

耳元で大きなクラクションが鳴り、僕は腕を強く引かれ、後ろへ倒れた。
呆然としている僕を、君が怒鳴りつけた。

「ふらっと車道へ出るなんて、何やってるの!轢かれるところだったわよ!」

それは紛れもない、いつもの君だった。
そして、僕は辺りを見回し、いつも通りの僕の世界だと確信した。
煩わしくも、温かい、面倒くさい事だらけの、僕の世界だ。

僕は立ち上がり、君を抱きしめた。
君は、訳が分からずにうろたえ、「人が見てる。」と言った。
僕は構わず、両腕に力を込めた。





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  1. 2007/07/27(金) 18:47:00|
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ドライブ

rover_2




僕が車に興味を持ったのは、些細な出来事がきっかけだった。
それも、とても俗っぽい。

僕は当時、飲食店でバイトをしていた。
昼間はコーヒーと軽食を、夜にはアルコールも出すようなちょっと小洒落た店だった。
そこに勤める社員の女性、 ―多分僕にとっては上司に当るのだろうが、一介のバイトにそんな意識は無かった― 、フロアマネージャーにちょっと憧れに似た気持ちを持っていた。

僕はあまり無駄口を叩くタイプじゃなかったし、彼女とプライベートな話をする機会もなかった。
その事を不満に思った事もなかった。

ある日、バイトに向かっている時の事だった。
その日は北風が冷たく、僕はマフラーに顔を埋めるようにして歩いていた。

僕の横を通り過ぎ、店の前で止まった車から、女性が降りた。
車の中に向かって、二、三言言葉を発しにこやかに手を振って歩き出そうとした時に、僕と目が合った。
彼女だった。

一瞬驚いた顔をした後、悪戯っぽい笑みを顔に浮かべ、人差し指を口に当てた。
内緒よ、と。

「うちの会社、車通勤禁止なの。」

僕は、初めて見る彼女の表情に誘われるように、つい軽口を叩いてしまった。
「口止め料は?」

彼女は、小首を傾げ、面白そうに
「何がいい?」と訊いた。

僕は咄嗟に、
「僕とドライブに行きましょう。」と言っていた。
車から降りる彼女の身のこなしに見とれた直後だったからかも知れない。

彼女は、一瞬思わぬことを言われたというような顔をした後、くすくす笑いながら、いいわよ、と答えた。


でも、僕は実は車どころか免許も持っていなかった。
なので、「冗談ですよ、それよりも今度おごってください。」と言い直した。

それも彼女は快諾してくれた。

でも、僕はとても残念だった。
彼女とドライブに行ったら素敵だろうと思った。
さっき、彼女が乗ってきたような大きな車じゃなく、小さな車がいい。
それで海岸線を走る。

潮の香りが鼻腔をくすぐり、風は爽やかで、陽の光はどこまでも優しい。
そして、隣には、彼女がいて、些細な話にくすくす笑っている。

それはとても心地好く、平和な情景に思えた。


その後、僕は免許を取り、思い描いていた小さな車を手に入れた。
もうあれからかなりの年月が流れていたし、僕もあの店でバイトはしていなかった。
そして、その頃には、彼女はもう結婚してしまっていた。
相手は、恐らくあの時に車で送ってきた人なのだろう。


今、僕は、愛車と2人きりのドライブを楽しんでいる。
思っていたように、小さな車で海岸線を走るのは、とても心地好く満ち足りた気分になる。
いつまでも、どこまでも走っていたいような気持ちだ。

そして、本当にたまに、これから出会うであろう、いつか助手席に座る女の子の事を思う。
表情のくるくる変わる、笑顔が素敵な娘ならいいな、と思う。


でも、今はまだしばらく、車と僕とで、ただ走るだけでもいい。
そう思う。





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  1. 2007/07/20(金) 22:07:23|
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秘密

beer




「ビールでも飲む?」
静かに、優しく、君が訊く。

そして、僕は追加のビールをオーダーする。

注文してから、ビールが来るまでの間、僕達の間に沈黙が流れる。
それはとても長く感じられ、僕は静かな湖の底へと沈んでいくような気分になる。

君の目を見つめようとすると、君の瞳が微かに左右に揺れる。
困った表情を浮かべないように努力しているのが分かる。

 . . .

数年前、君が僕に訊いた。
「男と女の間に友情ってあるのかな?」

僕は、自分の信念に従い、即答した。
「もちろん、ある。人間的に尊敬出来るかどうかは性別に関係ない。」

君が、少し泣きそうな顔をしたのを覚えている。
そして、僕が内心ひどくうろたえた事も。

その頃、君は、付き合っている彼が浮気をしているんじゃないかと怯えていた。
君の彼は、誤解だと言い、浮気相手ではないかと疑っている女性の事を「彼女は友達なんだ。」と言っていた。
君は、友人だと言われ、それ以上追求できず、かと言って、自分よりも頻繁にその女性と会っている彼の事を容認する事も出来ずにいた。
君は、根本的に、男は女に友情を抱けないものだと思っていたし、そう誰かに言って欲しかったのだ。
彼の浮気を追及する糸口が欲しくて。
僕は、そんな事は知らずに呑気に質問に答えていた。

僕は浅はかにも、そんな君に対して「じゃあ、友達になろう。」と言い放った。
今から思えば、随分傲慢な話だ。
僕達の友情が成り立てば、この男女間の友情に否定的な女性も意見を変えるだろうという、気軽な考えだった。

そもそも僕達は、大学の同じクラスに属していて、出席番号で自動的に決められた実験のパートナーだった。
僕達は 2人で実験を行い、レポートを書いた。

何度目かの実験の後、一緒に食事に行き、雑談をしているうちにそんな話になったのだ。

そうして、僕らは次第に友情を深めていった。
君は、とても機転の利く聡明な女性だったし、鋭い洞察力を持っていた。
それは、男女関係なく尊敬できるもので、僕はすぐに君という友人を持てた事を誇りに思うようになった。

だけど、あろう事か、僕はどんどん異性としての君にも惹かれていった。
女性とは思えないくらいの気の強さ。
自分の考えをとことんまで相手と議論し尽くす論理性。
かと思えば、時折見せる気配り。

僕は、自分の彼女よりも君と話す事に喜びを覚えるようになっていった。


僕は、そうこうしているうちに、つまらない事で彼女と別れた。
些細な喧嘩がきっかけで、会わないでいるうちに気持ちがすれ違い、彼女の方が新しい男を見つけた。
よくある話だ。

問題だったのは、それが僕にはショックではなかった事だった。

そうして、僕は、君を愛しているという自覚をようやく持った。

そして、僕がこんな回り道をしている間に、君と彼の間の問題は解決し、絆は深まっていた。

 . . .

君は、とうに僕の気持ちには気付いていたのだと思う。
そして、僕がその事を言い出すことに怯えていたのだろう。

よりによって、「男女間の友情は成り立つ。」と宣言した僕が、自らの言葉を壊そうとしているのだ。

その時の君の困った顔が目に浮かぶ。

僕は、君が好きだ。
とても好きだ。
君を困らせたくなんかない。

だから、この気持ちは、僕だけの秘密だ。
仮に、公然の秘密だったとしても。
決して口には出さない。
そう、決めている。





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  1. 2007/07/18(水) 10:00:00|
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