この街角で

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逆転ホームラン

□ このお話は、レイバックさん主催の第二回短編競作企画に参加しています □

  「チョコレート」「猫」「携帯電話」というお題を盛り込んだ短編を競作するという企画です。

  詳しくは、レイバックさんのブログ、「ショートショート風呂」の
  「第二回競作企画発表」をご覧ください。




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携帯の液晶を眺め、溜息をつく。
さっきから、何度目だろう。

部屋の片隅で、ブランケットにくるまり、動けずにいる。
真っ暗な部屋の中で、携帯のサブディスプレイだけが光る。

傍らに置いてある携帯。
鳴ればすぐに分かる。
鳴らないという事は、電話が掛かってきてないという事。
知っているのに。

それでも、開いて液晶を確認してしまう。
そして、また落胆する。

 "ねえ、今日は電話してって言ったよね?"

のろのろとマグカップを引き寄せ、冷めかかったホットチョコレートを啜る。

「落ち込んだ時には、甘いものだよ。糖分が元気をくれるんだよ。」

そんな事を誰かが言ってた。
ウソばっかり。
元気なんて、1mm だって湧いてこない。

私は、彼からの電話を待っている。
いつも、約束を守らない彼。

電話すると言ったのに、掛かって来ないなんて、日常茶飯事。
それどころか、一緒に出掛けようって、この日は空けておいてって、自分で言ったくせに、忘れる事もしばしば。

私の事を好きだと言うけれど、不安ばかりが大きくなっていた。

 "あなたは、私を必要としているの?"

そんな余計な疑問が、ぐるぐる頭の中を駆け巡る。
もう別れちゃおうかな、そんなこと出来ない、・・・気持ちはぐらぐら行ったり来たり。

そんな事を悩み続ける日々に嫌気が差して、私は 1つの決心をした。


 . . .


今日は、バレンタイン。
それなのに、彼はバイト。

「苦学生だからね、いつ休みたいなんて、贅沢言えないんだ。」

すまなそうに言う彼に、私は微笑み、言ってみた。

「うん。分かった。でも、バイトが終わったら絶対にその日のうちに電話して。」

そう。
今日は、賭けている。

今日、彼がまた、電話すらして来ないようなら、もう、別れる。
大好きだけど、無理して付き合ってもらいたくなんて、ない。
それは、ササヤカな私のプライドだ。


 . . .


そのまま、どれくらいの時が過ぎただろう。

時計を見ると、11時半を回っていた。
ああ、やっぱりダメだったんだ。
そう思うと、涙が零れた。

真っ暗になった部屋にいるのも嫌になって、電気を点けた。

やっぱり、この賭けは、負け試合だったんだね。


 . . .


みゃおん。

窓の外から猫の鳴き声がする。
そして、何かが窓に当たる音。

あれ?
ナナは散歩から帰ってきて、下のリビングで寝ていた気がするけど。

いつもはリビングの窓から出入りをしている飼い猫のナナ。
夜中に出掛けたくなった時、家に入りたくなった時だけ、私の部屋の窓を使う。
就寝が早い両親は、もうとっくに寝ているからだ。

仕方ないな、と窓を開けた。


 . . .


「ごめん。」

彼が何度も言う。

私は、すっかり冷え切った彼の手を握り、無言で首を振った。

窓の外には、猫ではなく、彼がいた。
静かに、私の部屋へあがってもらった。

バイトが終わり、電話しようとしたら、料金未払いで携帯が止められていたらしい。
公衆電話から掛けようにも、私の携帯は、発信元が分からない電話や公衆からの着信は拒否にしてある。

仕方がないので、家まで来たけど、私の部屋の電気が消えていたので、帰ってくるまで待とう思ったらしい。

「まだ帰ってないと思っていたら、急に電気が点いたから、焦ったよ。」
彼は鼻の頭を赤くして、そんな事を話し続ける。

「こんな時間に呼び鈴鳴らす訳にもいかないしさ、猫の鳴きまねしたり、小石を投げたり、もう必死。」
ははは、と笑ったあと、ふっと真顔になった。

「・・・それに、どうしても、これを今日中に渡したくて。」
小さな包みを取り出す。

「バレンタインって、男が好きな女にプレゼントしたっていいんだろ。」
ちょっと照れたように言った。

ふと、時計を振り返ると、11時57分。
電話じゃなかったけど、これ、OK にしちゃっていいかな。

「うん。今日中に間に合ってよかった。本当に。」
これは、私の心の底からの本心だ。
今日中に、間に合ってよかった。
私の中の賭けの点でも。
そして、用意していたチョコレートを彼に渡せる点でも。

「ごめんな。待つってこんなに辛いんだな。今まで、ごめん。」
私の差し出したチョコレートを受け取りつつ、彼が言った。

今度は嬉しくて、涙が零れた。


 "ああ、これは、逆転ホームランって事で、ハッピーエンドって事で、いいんだよね?"

私は、泣き笑いの顔のまま、彼に頷いた。







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  1. 2008/02/14(木) 18:52:53|
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  3. | コメント:21

ささやかな幸せを見つける方法

Caffellatte



僕の住む町の小さなコーヒーショップは、とてもいい雰囲気だ。
大手のチェーン店だけど、都心のショップとはまた違う、居心地の良い空気が流れている。
店員の誰もが、とてもいい笑顔で、元気に声を掛けてくる。
生き生きと楽しそうに働いているその姿は、誰にでも元気を分け与えてくれるかのようだ。

そして、レジで可愛い女の子に、「カッコいいカメラですね。」なんて声を掛けられると、単純な僕はそれだけで幸せになってしまうのだ。






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  1. 2008/01/23(水) 03:15:57|
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  3. | コメント:6

イルミネーション

illumination




「クリスマスには、イルミネーションを見ながら散歩しようか。」

「ごめんね、クリスマスは出張なの。」

 . . .

仕事なら仕方がない。
けれど、出来れば一緒にいたかった。
夜景を見て喜ぶ君が、見たかった。

じゃあ、僕達のクリスマスは、君の出張明けって事でどう?と問い掛ける僕に、君はくすくす笑いながら答えた。

 クリスマスって、キリストのお誕生日よ。
 そんな都合で、お誕生日を変えられちゃたまらないんじゃない?

言われて見れば、確かにそうだ。
でも、僕にとっては、クリスマスは宗教的な意味なんて無くて、イベントの 1つだった。
そんな大昔の人の誕生日って事より、君と過ごせる特別な日って事の方が大事だったんだ。

「大丈夫だよ。彼は心が広いからね、ちょっとくらいの誤差は見逃してくれるさ。」

 . . .

そんな訳で、僕達は、除夜の鐘を聞きながら、年越しそばの代わりにケーキを食べる事になった。
明日は、イルミネーションじゃなく、初詣に向かう人達を見ながら、手を繋いで散歩しよう。





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  1. 2007/12/22(土) 04:14:16|
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  3. | コメント:4

ハロウィン

halloween



へえ、ハロウィンパレード、そんなものがあるのね。
随分と日本も変わったわね。

住宅地の片隅にあるカフェで外をぼんやりと眺めながら、早紀はそんな事を思っていた。
ハロウィンなんて、早紀が子供の頃には、知っている人の方が少ないような行事だった。
今でも日本に根付いたとは思えず、街角がオレンジと黒で飾られるのを見ても、一体どれだけの家庭がハロウィンを行事として捉えているのだろうと訝しんでいた。
だが、実際には早紀が思っていたよりも、ハロウィンは身近な行事になっていたようだ。

子供達が思い思いの仮装をして通り過ぎるのをひとしきり眺めてから、そろそろ帰ろうかとぬるくなったコーヒーを飲み干し、店を出た。

家路を辿り、大通りから一つ角を曲がる。
その時だった。

「Trick or Treat!」

いつの間にか、子供が早紀の服の端を掴んでいた。
パレードからはぐれた子供だろうか。
小学校低学年くらいに見える、女の子。
魔女の仮装がよく似合う、可愛い子だった。

「小さい魔女さん、こんにちは。
 でも、お菓子は持っていないの。ごめんなさいね。」

女の子は、迷子にしては全く怯えた様子がない。
ちょっと小首を傾げ、考える表情をした後、にかっと笑った。

「おやつはないの?本当に?
 じゃあ、お姉ちゃんにはいたずらだよ!」

その言葉と共に、近くの街灯が瞬いた気がした。

女の子は、早紀の手を掴み、歩き出した。

「ちょっと、お姉ちゃん、お家に帰らなくちゃいけないの。」

慌てて言う早紀を振り返りもせず、女の子は言う。

「だって、おやつがないんでしょう?
 それに、家で待っている人はいなくなっちゃったじゃない。」

早紀は唖然とした。
なんで知っているの?

ちょうど二ヶ月前、一緒に住んでいた彼が猫を連れて出て行った。
きっかけは些細な喧嘩だった。
お互いに引っ込みが付かなくなって、傷つけるような事を言い合った。
それから早紀は家に帰ってもぼんやりと過ごしていた。

彼と猫と暮らしていた場所が、とても寂しく冷たい場所になってしまった。
会社へ行っても、仕事はこなすだけのものになり、以前のように打ち込む気力がなくなっていた。

呆然としたまま手を引かれ、どこをどう通ったか分からないうちに、知らない路地に来ていた。
近くにこんな場所があったなんて知らなかった。

「お姉ちゃん、一人が好きなの?」

歩きながら、女の子が口を開いた。

「好きなんかじゃないわ。」

「じゃあ、どうして彼と猫を追い出したりしたの?」

「追い出してなんかいないわ。彼が急に出て行ったのよ。」

「どうして?」

「知らないわ。分からないの。」

しばらく黙って歩く。
どうしてこんなに素直に話してしまうんだろうと、早紀は自分の事がおかしくなって、ふと笑ってしまった。

「お姉ちゃん、分からないのに、いいの?あんまり大切じゃ無かったって事?」

「そんな事ないわ。
 でも、相手が私を必要としていないのなら、仕方ないでしょう。」

そう言いつつ、どうして私はあの人を引き止めて、ちゃんと話し合わなかったんだろう、と思った。
私は恐かったのかも知れない。
彼の本心を聞くのが。
でも、こうして失ってしまっては一緒ではないか。
自分の心とも、彼の本心とも向き合わず、逃げてしまったのは自分だ。

ふと、自分の手を握る女の子の手が震えているのに気が付いた。
「寒いの?」
こくんと女の子が頷く。

自分の上着を脱いで、女の子の肩に掛けつつ、ふとポケットの中身に気が付いた。
さっきのカフェ、コーヒーには小さいチョコレートが一片付いてくる。

「これを食べなさい。お腹に何か入れると落ち着くわよ。」

女の子は、早紀を振り返り、目をじっと見つめた。
そして、チョコを受け取り、にかっと笑った。

「ありがとう!
 お姉ちゃん、おやつ持ってたじゃない!」

 . . .

気付くと、女の子に声を掛けられた元の場所に立っていた。

訳が分からず、呆然としていると、携帯が鳴った。
部屋から出て行った彼からだった。

電話に出ると、彼はひどく慌てていた。

「ルルがいなくなった!」

ルルは、彼と一緒に飼っていた猫で、完全な室内飼いだ。
外に出た事なんかない猫がいなくなって、慌てるのは当然だ。
早紀も、心配になって、心拍数があがった。

「どこでいなくなったの?どうして?」

彼が、珍しくルルを抱いて散歩をしていたら、子供の自転車に突っ込まれ、その音に驚いたルルが腕を飛び出し、走り去ったらしい。

場所を訊くと、すぐ近くだった。

「今すぐ行くわ。」

早紀は走り出した。


彼と一緒にルルを探した。
辺りはもうすっかり真っ暗で、気持ちが焦る。

もう見つからないかも、と思いかけた時、微かな鳴き声が聞こえた気がした。

「ね、今の聞こえた?」

「何が?」

彼には聞こえなかったらしい。
でも、早紀は振り返ると、家と家の間の細い道とも呼べないような狭い隙間を見つけ、そこへ入った。

後ろから彼が呼び止める声が聞こえたが、構わず進んだ。
また、聞こえた。

すると、物陰でうずくまっているルルがいた。

・・・良かった。
安堵で泣きそうになりながら、ルルを抱き、元の道へ戻る。
彼も泣きそうな顔になっている。

彼の腕へルルを渡す時、ルルがじっと早紀の目を見た。
そして、嬉しそうな声で鳴いた。

早紀はそれを見て、さっきの女の子の目と、にかっという笑顔を思い出した。

 . . .

早紀は深呼吸をして、彼に向き合った。

「ねえ、私、話したい事があるの。」

「・・・うん、俺も、話があるんだ。」






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  1. 2007/10/31(水) 23:21:58|
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歯医者

French_toast



待合室には、とても小さな音でソニー・ロリンズが掛かっていた。
僕は歯科検診の為に、久し振りに歯医者に来ていた。
検診を受け、歯石を取ってもらうつもりだった。

そう言えば、前回行った歯医者には、やはり小さな音でモーツァルトが掛かっていたっけ。
考えてみると、歯科医院というのは、音楽を掛けている事が多いのだろうか。
少なくとも、僕の記憶の中で、内科医の待合室で音楽を聴いた覚えはない。
そこにあるのは、子供の高い声と、お年寄りの話し声、そしてテレビから流れてくるアナウンサーの声だった。
よく言われる "歯科医院は恐い" というイメージを払拭する為、患者にリラックスしてもらう為の苦肉の策なのだろうか。
それとも、僕の訪れる歯科医師が、たまたま音楽好きなのだろうか。

まあ、そんな事はどうでもいい。
僕は、持ってきた短編集に視線を戻した。
とても短い短編が入ったもので、気が向いたところを適当に開いて読んでいた。
初めて読む作家のものだったが、文体が割と僕の好みで、僕は気になるタイトルの物から順に、適当に読んでいた。

隣から、「随分待ちますねえ。」と声を掛けられた。
見ると、スーツ姿の男が疲れたような顔をして座っていた。

「私なんて、もうかれこれ 40分も待っていますよ。」

「ここ、人気があるみたいですから。」
僕は出来るだけ失礼にならないよう、しかし話す気がない事を滲ませつつ返事をする。

「確かにお休みの日に営業しているなんて、便利ですからね、人気もあるんでしょう。
 あなたは今日はお休みで?」

僕の意図に気付かないのか、或いは全く無視しているのか、彼は続けて話し掛けてくる。

「ええ。休みじゃないとなかなか来られないものですから。」

「私は営業の途中で立ち寄ったんですがね、こう長く待たされちゃ適いませんよ。
 お、それは ** の短編集じゃないですか。
 こう見えても、私はその作家には詳しいんですよ。」

彼は僕の手の中の本に目を向けると、やおら語り出した。
僕は内心むっとしつつ、聞き流す事にした。
出来るだけ彼の言葉が僕の中に入って来ないようする事に、集中した。
僕は、小説や映画に関して、自分が読んだり観たりするよりも先に、ストーリーや人の評価を聞くのが嫌いなのだ。
それが暇つぶしに読んでいる本であっても。

なので、話題が変わった事に、僕は気付かずにいた。
気付くと彼は、僕に何かを懸命に訴えていた。

「ですから、これは丈夫で持ちはいいし、性能もとてもいいんです。
 もう、付け替えたらすぐにでも今までと全く違う世界を体感出来ますよ。
 おまけに、今なら前の物はタダで下取り致します。
 見たところ、30年はお使いでしょう。普通なら下取りだけでも・・・」

「あの、ちょっとすみません。少しぼーっとしていて。
 あなた、セールスマンなんですか?」

相手はちょっとむっとした感情を必死で笑顔の奥に隠し(でもそれは、少しだけ滲み出ていた)、こほんと咳払いをした。

「ええ、そうです。
 こんなお得な話はありませんよ。
 普通なら、初めてのお客様へこんなサービスはしないんですがね、ここでお会いしたのも何かの縁という事で。」

「で、僕は今、何を勧められているんですか?」

相手はさすがに、むっとした表情を 1cm くらい表に出したまま、残りを押し留め、息を吸った。

「ですから、影ですよ。あなたの影は随分くたびれている。」

「影?僕の、影、ですか?」

「そうですよ、そろそろ限界なんじゃないですか?」

 . . .

僕は無言で立ち上がり、受付に行って、今日はちょっと具合が悪くなったのでまた出直すからと診察券を返してもらい、そのまま外へ出た。

影だって?

全くもって、失礼な話だ。
確かに出来は良くないかもしれないけれど、こいつは不満も言わず、三十何年間もいつでも僕に寄り添っていてくれたんだ。

全く、折角重い腰をあげて、歯科検診に行ったというのに、なんでこんな目に遭うんだ?

 . . .

「ふーん。」と目の前の君が言う。

「それが、あなたが今日の歯科検診をサボって、今ここで甘い物なんか食べている理由なの?」

僕は反論を試みる。
「君は疑っているみたいだけど、本当なんだって。
 歯科検診にはちゃんと行く。でも、別の良さそうな歯医者をみつけてからだよ。」

「ま、いいけどね、私の歯じゃないし。
 でも、あなたは本当に歯医者が嫌いなのね。」

「そうじゃないんだ、そこには、本当にそんなヤツが・・・」

僕は最後まで喋れなかった。
君が、僕のセリフの途中で口を開いたのだ。

「それに今どき、そんな古い影を使っている人なんて珍しいわ。」






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  1. 2007/08/09(木) 04:01:18|
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プロフィール

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